日本人の身分制は生活習慣に根ざしている
日本人が作る社会は、当然のことながら日本人家庭の生活習慣に深く根ざしています。
したがって、結果的に出来上がる身分制のような構造も、生活習慣から立ち上がってくるものだと言える。
本書では、日本人家庭と欧米の家庭で、子供と寝るときのスタイルが全く違うことを解説しています。
つまり、親子が一緒にねる「添い寝」と、別々に寝る「独り寝」です。
さらに、本書では父、母、子供がどのような位置関係で寝ているかなども分析していますが、特に欧米先進国と日本の違いが興味深い。
添い寝は悪癖だった
欧米先進国では、生後すぐに子供は別室でひとりで寝るのが普通であるとのこと。
そもそも家の構造が、親子が一緒に寝ることを想定していません。
さらに、欧米先進国では小児科医や精神科医が、「添い寝は子供の独立心の成長を妨害し、夫婦関係に問題を引き起こす」として、独り寝を奨励してるらしい。
驚くことに、19世紀のプロイセンでは、議会で「添い寝禁止令」が度々議題に上がっている。
もっとも、度々議題になったということから、当時はまだ広く添い寝が行われていたことを示していますが。
いずれにしても、添い寝は欧米文化にとっては「悪癖」であり、忌むべき前近代の残滓であるようです。
日本の家庭では圧倒的に添い寝文化
これに対して、日本では9割近くの家庭で添い寝が行われており、添い寝の文化を保っている唯一の先進国である。
スペインやイタリアなどの南欧、シナなど日本以外のアジア諸国ではどうなっているかにも興味がありますが、本書からは分かりません。
しかし、アジア諸国では住宅事情などから恐らく親子一緒に寝ていると想像されます。
アメリカでも黒人家庭や移民は添い寝が普通に行われていることから、独り寝はほぼ北方の白人の文化ということができるでしょう。
独り寝がフラットな社会、人間関係の基盤なのではないか?
乳幼児期に暗闇に独りで放置されることがどれだけの恐怖を伴うかは、容易に想像されます。
大抵の日本人は、何て残酷なんだろうと思うでしょう。
高等な哺乳類は、子供が独り立ちするまではたいてい母子が一緒に行動する。
独り寝はそのような本能を人為的にコントロールする行為です。
だからと言って、欧米先進国の人たちが爬虫類のような冷酷な大人になるというわけではない。
欧米の市民社会や自主独立の気風、さらにその前提となる自己主張は、乳幼児期からの独り寝の恐怖と闘っていくなかで克ち得たスキルです。
また、親子の関係においても、もちろん乳幼児に庇護は与えるものの、関係性はフラットであることを志向している。
身分制の基盤がこのようなところにあるとすれば、独り寝を可哀そうに思う心情が一般的な間は、身分制社会は続くということでしょう。